抱いて |
ほんとうにあったちょっとステキな話 とあるところで、「妊婦さんに愛を」の話をしました。 あとで、聞いた話です。 ☆ スーパーマーケットに出掛けたら、おなかのおおきなひとがいました。わたしよりたぶん10歳ぐらい若い、すっぴんで、カジュアルだけれど、ちょっとステキなおしゃれな服装をしている、感じのよさそうな女の人です。そんなに急いでいるようでもないように見えましたし、店もそんなにこんでなくて、ひとの邪魔にもならなさそうです。いつもなら、目を背けて、かかわらないようにするのですが、くみさんに言われたことを思い出して、思い切ってちかづき、声をかけました。 「突然ごめんなさい。わたし、赤ちゃんが欲しいんですが、なかなかできないんです。おなかに、さわらせてもらえませんか。妊婦さんにさわらせてもらうと、幸運をわけてもらえるときいたので……すみませんが、よかったら……どうか、お願いします」 恥ずかしいので、早口に言いました。そのひとは、びっくりしたみたいでしたけど、わたしが頭をさげて、もう一度、お願いします、というと、「いいですよ、どうぞ」といってくれました。 そばに、自動販売機コーナーがあったので、並んで腰掛けて、さわらせてもらいました。すごくおおきくて、不思議でした。もちろん服の上からですが、あたたかかった。てのひらをぴたっとつけてじっとしていると、なんだか少し動いたような気がしました。これが胎動っていうもんなんだろうか、とドキドキしました。わたしもいつか、こういうふうになれたらいいのになぁ、ほんとうにそんな日がくるのかなぁ、そう思ったら、目がうるんできました。 と。 肩になにかあたりました。 なんだろうと思って振り向くと、小さな女の子でした。椅子の横でけんめいに背伸びして、わたしにしがみついていました。いえ、わたしを、HUGしてくれていました。守るように。なぐさめるように。妙に真剣な顔つきで。 「×××ちゃん?」 おなかのおおきいひとが言いました。たぶん、小さな女の子の名前です。彼女のこどもだったようです。 「抱っこしたげようー!」 と、×××ちゃんが言いました。 (あとで思ったんですけど、きっと、わたしはよほど悲しそうな顔をしていたんじゃないでしょうか) くみさん、わたしは、もし赤ちゃんができたら、いっぱいいっぱい抱っこしてあげたいと思っていました。いいおかあさんになって、泣いたら、泣きやむまで抱っこしててあげるんだと思ってました。腕が痺れても、一日じゅうでも、毎日でも、いくらでも抱っこしていようと。きっとそうしますから、虐待とか、ヒステリックに叱ったりとか、テヌキとか、ぜったいしませんから、だからかみさま、わたしに赤ちゃんをください、だから天国でうまれる順番をまってる赤ちゃんたち、わたしのところにきてちょうだい、って。そう思っていました。 なのに、抱っこされてしまいました! 知らないよそんちの小さな子に! 悲しいやらおかしいやら、ありがたいやら、なんだかわけがわからなくなって、へろへろになってしまいました。 その晩、帰ってきた主人に「抱いて」と迫ったら、「おいおいここでか?」と冗談にされましたが(照れ隠しだと思いますが)、「そうじゃなくて、ただギューッて、思い切り抱っこして欲しいの。しばらく、してもらってないから」といったら、急に真顔になって、それから、……抱いてくれました。抱っこしてくれました。そのままのかっこうで、きょうあったことをはなしました。こういうわけで、よその奥さんのおなかにさわらせてもらっていたら、そのひとの上の子に抱っこしてもらっちゃったんだよ、と……主人は、無言のまま、わたしの背中や頭をなんどもなんども撫でてくれました。そのあとで、気がついたら、なんか……あのう、してたんですけど、……この日は、へんな話、する予定ではありませんでした。しばらくは投薬をして数値を確認して時期をみはからって、もっと可能性の高い時にするはずだったのですが、……あのう、どうも、この時に妊娠したみたいです。 |