うつと妊娠

ただでさえうつなのにしかも妊娠とか出産とか考えだすと不安で不安で

 

先日、とある読者のかたから、編集部にお電話を、つづいて久美蔵にメールをちょうだいいたしました。公開をお望みにならないお手紙だったのでご紹介できませんが、要約すると、現在うつと神経症をもっていて、投薬治療をうけている、妊娠を望んでいるのだが、年齢も高く、こんなにクスリをのんでいて大丈夫なのか、不安である、『45歳、もう生んでもいいですか?』を読んでみた、クミは、うつの時どんな治療をしていたのか。それは妊娠にどう影響したのか、よかったら聞かせてほしい、というようなものでした。

もしかしてひょっとすると、同じようなことを体験なさったり心配なさっているかたもあるかと思うので、わたくしめのお返事を、少しだけ変更して、ここに転載します。

 

〇〇さま、メールをありがとうございました。
担当編集者のほうより、お電話いただいたことをうかがっておりました。

お気持ち、よくわかります。

わたしにも、妊娠したいと思っていたのにデキなかった長い長い時間があり、それとうつとが重なっていたこともあります。

その頃には、〇〇さまとそっくりおなじように考えたり感じたりしていました。
妊娠にはタイムリミットがあり、自分のそれはもうまったなしに迫っており、クスリは胎児によくないとしたら、こういう治療をのんびりうけていると間に合わなくなってしまうのではないか……というような。

アセってもどうなるものでもないと思っても、アセってしまう時には、あせりますよねぇ。

うつのクスリをのんでいた時期は、これまでに、二回あります。
最初の時には、ルボックスと胃のクスリなどをいただいて半年ぐらい飲んでいたら、ある日突然「あ、いらないや」と思うようになり、お医者さんにも「いらないような気がするんですが」といったら「じゃあ飲まなくていいです」といわれて、やめました。

しばらく不要だったのですが、また、ある時ふと、また、じわじわとしんどく感じるようになり(冬だったような気がします。わたしは寒くなるとうつな傾向になるほうで、夏はわりと元気なのです)クスリがあれば楽になるのがわかっていたので、もらって、その時の気分で、のんだりのまなかったりしていました。

デパスやパキシルものんだことあります。

また、あの本にかいたように、「頸部椎間板ヘルニア」が出まして、右肘を中心に、ひどい痛みがありました。この痛みがストレスや不安を誘発し、疲れやすくなり、ダルくてなにもする気にならなくなって、うつや、パニック障害とも似たような状態でした。
で、イタミドメのおくすりや、筋肉が緊張してしまうのを緩和するくすりをもらっていましたし、あんまり痛い時は神経ブロック注射をしてもらいにいきました。

また、不眠傾向があり、市販の「眠れない時にのむといい」おクスリのたぐいもつかってました。「パンセダン」というハーブのおくすりを毎晩のようにのんだりしていました。
お酒も、たくさんのんでましたし、たばこも、マイルドセブンエクストラライトというとても軽いものですが、一日3箱ぐらい吸ってました。


お医者さまは、具体的に「催奇性」(胎児に悪い影響をおよぼした例など)が確認されていようがいまいが、妊婦には、なるべくクスリを出したがりません。
市販のカゼグスリですら、のまないですむならのむな、というのです。
クスリがひとにおよぼす影響は体質や「のみあわせ」などにもよるし、人間の場合は、対照実験をして確かめたりすることができませんから(マウスなどでは、わざと異常をおこさせたりして、たしかにこのクスリはこういう副作用をおこすのだ、と確認できますが)
安易にすすめて、とんでもないことを引き起こしても責任がとれないから、だと思います。

ですから、逆にいうと、お医者さまが「ぜったいやめろ」ではなくて「なるべくならやめたほうがいい」ぐらいにおっしゃったのだとしたら、そんなに不安には思わなくていい、危険な度合いは「そうとう少ない」と思っていいと思います。

もちろん100パーセントの安全ということはありえませんが。
どんなに気をくばっても、母親や父親がなんら「悪いこと」をしなかったとしても、たまたま赤ちゃんに問題がおこるようなことはありえますから。


わたしも、妊娠したいと思いながらなかなかかなわなかった時、安心のためには、うつのクスリをひかえるとか、より安全なクスリにかえるとかしたほうがいいのかもしれないなぁと思っていました。思いながらも、実際には、そういうことはできませんでした。

そんな余裕はなかったのです。

なにをかくそう、妊娠したいと思うゆえに、禁煙していたことがありました。中医学、つまり、漢方の先生にそうするようにすすめられたこともあったので。13カ月ほどしっかりがんばって禁煙していたのですが、「好きなタバコを必死にやめているのに、ちっとも赤ちゃんなんかできやしないじゃないか!」と腹がたってしまって、「ええい、もう我慢するのはいやだ、肺ガンで死んだっていいや、好きなだけ吸ってやる!」とばんばん吸っていたら、なぜかその真っ最中に妊娠しました。

たばこに害があることはよーくわかっていますが、好きなもの、習慣になっているものを無理に我慢することもそうとうにストレスになります。まして、我慢しても、その我慢にみあうご褒美(この場合は妊娠)がなかなかもらえないと、ほんとうに頭にきちゃうんですよね。

さすがに妊娠がわかったあとは、こころをいれかえて禁煙し、おかげで、太りました……。

妊娠がわかってしばらくすると、これはうつの反動の「多幸症」なんじゃないかと思うほど、ハッピーになり、らくちんになり、楽観的な気分でいられるようになりました。

なので、それからは、こううつ剤や、精神安定剤などを、欲しいとは思いませんでした。

おなかの赤ちゃんのために、なるべくストレスがかからないように……とも思いましたが、このわたしがのんびり寛いでハッピーでいることがいちばん赤ちゃんのためになるんだと思うと、サボッて楽をすることや、我慢をしないこと、ツライことは後回しにしたりひとにかわってもらったりすることにたいして、もうしわけないというキモチや、負けたようなキモチ、罪悪感が、そうとうに少なくなるか、ほとんどなくなってしまいました。その気持ちのもちようが、大きかったような気がします。

なにより、椎間板ヘルニアの痛みが「ぴたり」となくなったのが驚きでした。
クスリなしではいられなかったのに、まったく必要なくなってしまったのです。

多少頭痛がしたり、風邪っぽくて寒けがしたりしたことはありますが、とっさには、妊婦にいいということになっている温かなハーブ茶などをのんだり、たくさん着こんだり、お風呂にゆっくりはいったりして、とにかくリラックスをこころがけました。

妊婦は「おなかが張る(子宮が緊張して、痙攣するような感じがする)」ことがあるのですが、はりどめの「ウテメリン」というおクスリをもらって、ひどい時にはそれをのめばいいと思っていましたし、本にもかいたように、「呼吸方法」で自分で自分のからだをリラックスさせることができるととっさにらくになれるので、それをマスターしてしまってからは、張るのはあまり怖くありませんでした。

〇〇さまにご質問いただいた点に具体的にお答えするのは以上です。

ここから先は余計なお世話かもしれないことです。
わたくしめ自身がそうだったことに基づいてかいているので、〇〇さまにはあてはまらないこともあるかもしれませんがお許しください。

うつだった時、わたしは「自分さえ我慢すればいい」「努力すればいい」と思っていました。
がんばっているつもりだが、まだまだ我慢がたりないから、努力がたりないから、だからいろんなことがうまくいかないんだ、思惑どおりにならないんだ、幸福になれないんだ、と思っていました。

でも、どんなにがんばってもどうにもならないことというのはあるもので、人生、「けなげに努力するエライひと」があとでちゃんと報われるとはかぎらないし、悪いやつがこらしめられてひどい目にあうともかぎらない、逆にいえば、ひともうらやむような幸運にめぐまれたひとはなにか神様にホメられるようなことをしていたからなんだ、とはかぎらないし、とんでもなくつらい目にあってしまうひとはそんな目にあってもしかたないようななにかいけないことを前にこっそりしていた……からではない。

うつになるのもならないのも、妊娠するのもしないのも、どんな人生をおくるかは、みんな、残念ながらあまり自分できめられることではない。努力の度合いによるものでもないし、他人との比較でどっにがエライとかそういうことでもない。
たぶん、自然となるようになるしかないんだ、と思います。

望んでいたのと違うようになっている場合も、少なくとも、自分が失敗したから、努力がたりなかったから、選択肢をまちがえたから、ではない。それだけではない。必ず、自分には、残念ながら、まったくどうしようもない部分があったと思うのです。
うつな気分だと、ここのところで、ついなんでも自分を責めがちで、あの時ああしておけばこうしておけばとタラレバなことを考えておちこんでしまったりしますが。

もっと謙虚に、あるいは、受動的になっていいんじゃないか、とわたしは妊婦になって思いました。

自分でどうこうしようのないことは、運命だかカミサマだかわかりませんが、なにか自分よりおおきなものにおまかせしてしまっていいんじゃないかと。

妊娠するかどうか、どんな妊娠をするかは母体だけの問題ではなくて、まず少なくとも半分は「精子」の問題です。
受精するというのは「精子をうけいれる」ことなんではないかと、……こっからはちょっと迷信くさいですが……わたしは思いました。

うつなやつは、自分にもヒトにも厳くて、ものごとをあまり温かく受け入れないと思います。

こんなだったらいやだ、あんなのはいやだ、こうだったら心配だ、不安だ、めんどうだ……と、カタクナに、殻をとじたような状態になっていて、
それでも、自分でつくってしまった針の穴のような難関を、がんばってくぐりぬけてきてくれるような「ほんとうにすごいもの」しか、いらない、そうでないなら欲しくない、みたいな、とても傲慢なキモチになってました。わたしは。

そういうカタクナさがふと(熊本の温泉まで遊びにいって、大好きな友達と心のそこからのんびりすごしたりして、大きな景色を眺めて、気持ちがキモチがゆったりして)解けて、
「とてもおおらかなキモチ、両手をひろげてなんでも歓迎するようなキモチ」
「楽しいことや、すてきなこと、おいしいことをいっぱい感じて、幸福になった状態」
「いまなら、なんでもこい〜、受け止めるぞ〜!」
みたいな、精神的・肉体的な状態になったとき、
たまたま原因(つまりセックス)があったので、ラッキーにも、妊娠したんじゃないか、と思います。

心配ごとができるかもしれないと思って心配してしまえば、ケシ粒のような心配が、膨大にふくれあがってしまいます。
もしかしたらなにか困ったことがあるかもしれなかったとしても、そうなったらそうなったときに対処すればいい、ダメな自分で、あまり思い通りにいかない人生でもいい、だらだらのんびり生きて、ほんのちょっとしたラッキーや素敵をみつけたら、それを虫眼鏡でのぞいて拡大してでもよくみるようにしよう、家族とかともだちにもどんどん「こんな素敵なことがあったんだよ!」っていえばいい。

わたしはなるべくそういうふうに思うようにしています。

それでも、なにしろ根がうつなので(笑)

いまでも、うつのすごい波がきてズブ濡れになってしまったり、
「あー、いまやばい」と思うことがあります。

主人にも「ひょっして、うつっぽい?」といわれて「ごめん、ちょっといまシンドイ」ってこともあります。

なんとかやれるかなと思っても、がんばりたいど思っても、訊ねられると「平気平気、だいじょうぶ」といってしまっても、、それでも、カラダのほうがよほど正直に反応してみせてくれることがあります。お腹がいたくなってトイレから出られくなったり、ひどい汗がでたり、寒くなったり暑くなったり、顔の表情が仮面みたいにかたまってしまったり。「無理だよ、ダメだよ、つらいよ、なんとかしてよ!」って、カラダが叫ぶみたいなことが。

そんな時は、とりあえずできるだけ何も考えないようにして、休みます。時間をおいて、眠れる時には眠って、おいしいお茶を飲むとかあったかいお風呂にはいるとかなにか気持ちよくなって幸福になるようなことをして、カラダのほうも「うーん、じゃあ、まぁいいか、しゃあない、また一緒にがんばってあげるよ」といってくれるような、ゆとりのある状態になるまで、まってみます。ゆとりのある状態がなかなかこなくても、あせったりあわてたりしないで(あせればあせるほどかえって遠回りになるので)ほんとうにギリギリに間に合わなくならないうちは、なるべくあわせないようにします。「まだ平気」「わたしはのろま」「あとまわしあとまわし」と唱えます。

マタニティブルーとか、育児ノイローゼとかだってあるわけで、
妊娠できたら、出産できたら、それで「あがり」ハッピーエンドではありません、
こどもがいなかったらまったくなしですんだはずの、まったく新しい「悩み事」が発生します、
ほんとうに、完全でカンペキに安心なことなんて、どこにもない。

でも、

バリバリのうつで45歳のわたしも、妊娠できたし、出産できた。

こないだ、知人のおともだちのかたが、なんと、52歳で、初産で自然妊娠なさったそうです!

焦るキモチはほとんうによくわかりますが、でも、あせってもいいことなんにもありません。はやくはやくと自分を追い込まないであげてください。

「あわてなくても、だいじょうぶ!」 

カミサマは(あるいはコウノトリさんは)それぞれのひとにいちばんふさわしい時を、きっと、考えてくれているのです。

あなたの時は、きっと、これから来る。

ちょっと、息抜きをして、はりつめたキモチをらくにして、なるべくのーんびり、
〇〇さまご自身のこころとからだがらくちんで楽しいリラックスできる時間を、
たとえ一日五分でもいいから、もしかして毎日がむりなら一週間に何回かとかでもいいから、
つくるようになさったらどうかな、と思います。

幸運を、お祈りしています!

くみさおり