1・天パに生まれてきたけれど

 久美の頭髪は天パである。

 「天然パーマ」略して天パというのはもちろん通称であって、美容院等では「しゅくもう」という。「縮毛」の音読みだ。

 ちぢれていることから、ラーメン頭とも言う。カンスイの強烈に効いた麺みたいなのだ。

 一本抜いてしげしげ観察してみると、なぜちぢれるのかよくわかる。

 太さが一定していないのだ。へたくそが初めてトライしてみた手打ち麺みたいなのを想像していただきたい。あるいはこどもが粘土で作ったヘビさんを。ぶっとくなったり細ぉくなったりするから、とても脆い。どの一本もみな、いたって個性的なやつらで、まったく気まま勝手に太くなったり細くなったりしている。隣の一本と協調などしようともしないから、互いにおしのけあってモコモコに膨れる。

 生まれつきそうで、そういう毛しか生えてこないんである。

 クビレたところからあっちこっち好きなように曲がる。曲がってつっぱらかりあうから、すぐからまる。いったんからまったら、櫛などまったく通らない。手櫛か、アフロ用の櫛界のクマデみたいなやつで、毛先から順番にそーっとそーっとほぐすしかない。もし短気に乱暴に強引にブラッシングなどしようものなら、弱いところからどんどん切れてしまう。

 縮毛はとても傷みやすいのだ。そうして途中で切れたり枝毛になったりすると、ますます膨れる。力まかせに引きちぎっているわけだから、きちんとプロがはさみでカットしたのと違って、断面がよろしくない。ボロボロでざくざくなので、そこからどんどん被害が広がる。髪表面のほうも、しょっちゅうこすれあうともともと弱いキューティクルがはがれかかるわけで、ウロコの端っこがササクレ立ったようになる。このすべてによって、縮毛は、ますます膨れ、ますますからまり、ますます扱いにくくなり、ますます傷むようになる。

 濡れると(水分をたっぷり含むと)かなり素直にまっすぐになり、カサが減ってぺしゃんこになったように見える。一見ストレートになり、扱いやすくなる。ほんのひとときの慰めだが、濡れたままのほうがとかしやすいのでついそうする。ところが濡れた状態で無理をするとますます傷むらしい。はたまた縮毛は水分保持能力に乏しく、ほうっておくとどんどん乾燥し、膨れ上がっていく。真剣に水分コントロールをするためには、かなり強力なヘアケア製品を、毎日のように使う必要がある。

 縮毛たちは、どうも頭皮から世間に向けて伸びはじめるそのしょっぱなから既に、まっすぐいこうという気がないらしい。地面……じゃなくて、頭皮の表面より「奥」にある頃からすでにうねってくねって曲がっているからである。よって、垂直に出ない。斜めに出る。隣のやつも別の斜めに出ている。その隣も。全体がこうじゃあ、ぐしゃぐしゃになるのも、無理ないでしょう?

   こんなトホホなものの実物に近いものを観察してみたかったら、腋毛か陰毛を抜いて、しげしげ眺めてみていただきたい。こんなことを言うのは自分でもとてもイヤなのだが、どそっくりである。わたしのよーな強烈な縮毛の場合、すこぶる猥褻なことになっている毛状物体がびっしり頭に生えているようなもんだと考えていただくのがもっとも鋭く実情を反映することになると思う。言えば言うほど情けないなぁ。

 ちなみに隠しておかなければならないところの毛は、そんなには長くならないでしょう? わざわざマメに切らなくても、一定の長さでとまっちゃうよね。やはりあれは弱くて切れやすくできているのではないかと思う。

   形状はスチールタワシにも似てる。あれは金属を細く削りだして作るものなのではないかと思う。硬い金属でも、テンションかけながら細長くひっぱるとくるくるちりちりとなるんである。

 プレゼント包装に凝ったことのあるひとだったら、化繊のおリボンをハサミで「キュー」としごくと「くるりんくるくる」になることをご存知だろう。あれにも似てる。リボンなら可愛いけどね。

  なんだってそんなもんがよりによって頭に生えてしまうのか!?

 まったく迷惑きわまりない。

 

 

       back        next        top