ちっちゃなちっちゃなちっちゃなちっちゃなちっちゃなチーちゃん

 

 ルーを発見してから二週間とたっていない、ある日のこと。

 ウチは一家で、東京にでかけることになりました。目白の、旦那の実家に厄介になりながら、夫婦がそれぞれ、都会での用事をたすわけです。

 一家というのは、この場合、夫と、アタシと、犬3匹猫2匹のことです。他にも、トカゲだのヘビだのサカナだの鶏だのインコだのがギョウサンいてるのは前に言ったとおりですが、彼らは毎日お散歩しなくてもいいし、毎日ゴハンをやらなくてもいい。一週間ぐらいほうっておいてもてんで平気のダイジョウブなので、夫婦が両方いなくたって、どうにでもなる。ちょっとした上京の時には、いつでも残していける。

 もっとも、うちの爬虫類はほとんど熱帯産で、気温が二十度を割り込むと弱って死んでしまいます。

 夫のもともとの好みのゆえでもあるけども、あえて、そういうのしか飼わないようにしているんです。もしも不幸にして逃げ出してしまった時には、すみやかに死亡し、軽井沢の生態系に最小限の影響しか与えないように。もちろん、そう簡単には逃げないようにしてはあるのだけど……人間のやることに百パーセントの完全はありませんからね。あくまで、二重三重の安全策を選択し、万が一にもご迷惑をかけないようにと心掛けております。

 だって、せっかくの軽井沢。せっかくの自然環境だもの!

 ウチでは、蝿とりリボン(鶏小屋の周りなど、どうしても蝿がたかる)や電子蚊とりの類は使いますが、よくあるスプレー式の殺虫剤はめったに撒かない。この山を満たす生命たちに、自然の一部であるさまざまな生き物たちに、恐ろしい毒を蔓延させないために。

 ここらでも、企業の山荘やなんかでは、どうも、バンバン虫を殺しているみたいです。今年はやたらに蛾が少なかった。もしかすると、どっかで集虫灯をつけて、ワザワザ集めて殺しているのかもしれない。なにせ、ゴルフをしにくるオジサンたちやテニスをしにくるおくさまたちは、自然と触れ合いをもとめて軽井沢にやってこられるハズの割には、ムシの類がお嫌いですからね。

 蛾やケムシが全然いなくなったら、野鳥さんたちが飢えて死ぬんですけど。

 都会の人口集中地帯では、バルサン焚こうがなにしようが勝手ですが、山にきたら、山にいるのが当たり前の虫たちは、そのまま当たり前にそこにおいておいてやって欲しいものだと思います。それが我慢できないひとは来なければよろしい。特に、子供さんづれのかたがたには注意をして欲しい。親が害もない虫を目のカタキにすると、子供さんもやっぱり、害のない虫をただ生理的に目のカタキにする馬鹿な大人になりますからね。触るったら危ないケムシとかスズメバチとかには、近づかないように、触らないように気をつければいい。そのためには、どういうのが危ないか、どういう場所にはいっちゃいけないか、ちゃんと勉強して、自分の頭を使って考えればよろしい。

 都会のルールのままに過ごして、ウッカリ触るのが怖いからって、近所一帯から撲滅しようとするのはわがまま病です。原住民は迷惑です。ムシ好きの原住民なんか、どー思おうと構わないとしても、ひいては、あなたがたでも「まー、可愛い♪」「いい声ねェ」っておっしゃる小鳥さんたちのためなんですから……わざわざ隊列くんで見物にいらっしゃるトリミニストのひとたちもいるんですから(はっきりいって、大勢で歩いてたら、普通なら見える鳥も逃げちゃうんじゃないかと思いますけど。鳥を見るには、ボーッとひとりで散歩するのが一番だと思うんですけど)。なかなか消えない毒をやたらにあちこちにまくのだけは、是非やめてくださいよね。

 ……おっと、話がそれました。

 トカゲだ。爬虫類だ。

 夏場でも、一千メートル急のこの山荘のまわりは、急に冷え込むこともある。ゆえに動物プレハブや動物ケージの中には、一定の時間がくると点くようにシカケされている電熱ヒーターの類が設置されているのだけれども、雷やその他の理由で瞬間停電などすると、スイッチがきれちゃう。ヒーターがとまる。すると、アブナイ。

 そのため、うちでは、セキュリティ屋さんと契約をかわしてあり、万一の時には、設定した危険範囲にまで温度が下がると素速く警報が鳴ることになっています。家に我々がいる場合には我々がなんとかしますが、遠くに行ってて留守の時には、セキュリティ会社のひとが駆けつけて臨時の措置をしてくれるお約束になっています。旅行などのたびに出先を知らせておき、できるだけ速く、こちらにも連絡をつけてもらうことになっています。よって、その万一のために、毎月、契約料金をセッセと払い続けているんですが……まだ一度も出動してもらってないかな? 

 でも、これを頼む前には、もっと悲惨だったんですよぉ。たとえば、アタシの実家であるところの盛岡にふたりして出かけている間、旦那は、一日に二度も三度も中部電力に問い合せの電話をかけて、うちのあたり一帯に瞬間停電がなかったかどうかを尋ねたもんです。ある時、ホントに瞬停があったことがあった。旦那は、以後の旅程をすべて投げだし、すさまじい勢いで一路家に帰ったんだけども、なにせ盛岡。時間がかかりすぎて、一部の動物は死んでしまったらしい。

 趣味で飼ってる動物たちです。エゴで、ワガママで、生まれ故郷から連れだされちゃった子供たちです。ウッカリや無知や怠慢でその大切な生命を奪ってしまうと、ほんとうにすまない。せめて、飼うからには、天然自然でのその寿命と同じ分くらいまでは長生きさせてやりたいじゃないですか。

 で、とにかく。

 たとえ一泊でも、犬と猫は連れてゆきます。猫だけだったら、ドライ・フードをてんこ盛りにしてなんとかなるのかもしれないけど……ウチのわんにゃんは、なにせ一日四回おでかけ、っていうのが習慣になってるからなぁぁ。

 犬猫はまだいいんです。冬場は、シコミの最中のオオタカたちも連れてかなくっちゃならない。小屋に離して好きなだけ食べさせているヤツは、鳩でも放り込んでおけば二・三日は大丈夫なんだけど。狩のシーズン、体重をギリギリに落として毎日訓練してるヤツは、ほんのちょっとでもお腹がすきすぎると、それで弱ってしまいますから、おいてくわけにはいかない。

 犬四匹を綱つきのまま乗せ、猫は一匹ずつ移動用のケージにいれ、オオタカ運び用には、夫が自作した巨大オカモチ(のようなもの)を積むというと、サスガのエスティマもギュウギュウ詰めになりますです。

 で。

 あれは夏のはじめですから、タカはナシで、まぁ、そんなにギュウギュウじゃありませんでした。ただし、犬三匹がみんな前をみたくて必死で乗り出しのしかかるので、助手席のあたしの周りだけがなんだかやたらに窮屈な状態だったその日。

 しばらく帰らないんですから、ウチじゅうのゴミを集めて持って出ていますね。軽井沢は、ゴミ出しは、何曜日でもまぁ許されることになってるんです。だって、別荘から都会に帰るひととか、ゴミの出せる曜日にしか出発できないと、そりゃ大変で不便でしょうがないですからね。

 で、ゴミの集積場で。

 クルマ止めました。雨が降ってました。普段は助手席のアタシがゴミ出し担当なんですが、その日はなにしろ、はじめて遠くまでクルマにのるルイ太が必死の形相で膝にしがみついていましたから、立ち上がれない。かわりに出ていった夫が……突然、ハッとしたように立ち止まり、次の瞬間、ゴミ箱の後ろがわに走り込みました。

「ど、どうしたの?」

 あわてて窓をあけると。

 にー。にー。にー。

 聞違いようもない、子猫の鳴き声。

 にー、にー、にー(寒いよー、怖いよー、誰かきてー!)!

 雨です。やがて夕暮れ。ふとみれば、左から、燃えるゴミ、燃えないゴミ、と並んでいるカゴの右側、つまり、燃えないゴミの横っちょに、まだぺしゃっとなっていない段ボール箱が落ちている。いや、それは明らかに誰かが置いたらしい様子で、フタは、内側からコジあけたみたく、半端に開いているのです。どうも、猫は最初、そこに、その段ボールに入った状態で捨てられ、その後、自力で脱出したものの、行き場もなくて、取り敢えず雨のかかりにくい背後の樹の根元のほうに歩いてったらしい。

 やがて……ぼうぼうに茂った草の間から、ダンナが現れました。ちっちゃなちっちゃな三毛ニャンコを抱っこして。

「どっち?」

「メスだよ。三毛だから。オスだったらすごい」

 そうなんだそうです。

 にーにーにーにー。

 か細い声だけど、元気に鳴いてます。あたしはルイ太その他の重量に立ち上がれないので、チラッとしか眺められなかったんだけど。

「うそー、かわいー♪」

 エスティマの中には、前に鳩(タカの訓練用。レース鳩を飼っておられるかたのところにはしばしばよそんちの鳩がまよいこんでしまうらしい。そんなおバカ鳩はレースに使えないから、いらないんだけど、鳩好きのひとには殺せない。かといって、ずーっと飼っておくには場所もいるしエサもかかる……というわけで、そういう「落ちコボレ」くんたちをためといてもらって、時々ひきとってるわけです)をもらいにいった時のケージが一個、余分に積みっぱなしになっていました。ゾウキンがわりの古タオルもいっぱい乗っていました。ダンナは濡れた子猫を拭いてやり、そこに収めて、走りだし……

「いやぁ、また拾っちゃったね」

 もうニマニマしています。

「今日は目白に、ルタちゃんの初おめ見えだったのに……一気に二匹新参だね」

「……うんうん。いやぁ、すげぇ可愛い。まだ二ケ月ぐらいかなぁ。……そうだ。ゴメン、いっぺん戻る。もしかしたら、まだ小さすぎて、牛乳が飲めないかもしれない」

 牛乳はウシの乳です。他の動物の乳なんですから、人間の赤ん坊にもハードすぎますが、ある程度以上若い小犬や子猫にも当然よくありません。消化しきれなくて、お腹こわして、そのまま死んでしまったりします。

「小犬用の粉ミルクがまだあったはずだから、あれを持っていこう」

 もう夜になりかかっていたし、そもそも、ゴミを捨てによる前に、目白には『いま出るからね』FAXをいれちゃってあります。動物病院には東京で連れてゆくことにし(目白の家の近所にも、ちゃんとおナジミさんがあります)、我々はできるかぎりの大慌てで再び山を出発しました。

 途中、高速のインターで犬たちにシッコをさせに止った時、アタシは目白に電話をいれました。

「遅れてるんです、スミマセン。途中、事故渋滞もあったんですけど……実は、また拾っちゃったんですよぉ!」

 

 車中の相談で、チビねこは、チコちゃん、チーちゃんと名付けられました。アタシが最初に思いついたのは、「モモちゃん」だったのですが(理由は特にない)なんか雰囲気じゃないって却下になりました。三毛で和風なので、パメラとかシャルロットなんて名前は似合わないし。結局、ちっちゃいから、ちーちゃん。ウチにはダイスケというおにいちゃん猫がいるので、大ちゃんと小ちゃんみたいで、いいかな、と思ったりして。

 さて。

 目白の家では、うちの夫婦とドーブツのためだけに、ひと部屋を開けておいてくださっています(マンションだけど、昔のマンションなので、ずいぶん広いのです)。

 夫婦の二段ベッドの横に、90×60×120サイズの猫ケージがあり、昼間はここに猫たちをいれておく習慣です。かつてこの家に暮らしていたシェパード系雑種の巨大犬ジロちゃんがたいへんな猫嫌いで、いじめられないように、人間がいなくなる昼間は隔離しておく癖がついてる、というのと、そのジロちゃんのトイレ用にベランダへのサッシがひとのいない時には少しあけてあり、猫がもしこれを越えて出てしまって、地上12階の高さからジャーンプ! してしまうと……それはそれは恐ろしいことになるので。少なくとも誰かひとりの人間が家の中にいて、ベランダへの扉がちゃんとしまっている時にしか、猫を出しません。

 かつて、大猫まーちゃん(旦那が高校生の時に瀕死のを助けた猫で、もうオバサン)が攀じ登ってビリビリにしてしまった壁紙を、この間の改装でキレイにしてばかり。今度の壁は、爪がひっかからないようなツルツルの奴だし、床もね、ところどころにラグが敷いてある以外は、犬や猫がナニカをしてしまった時にも掃除のしやすい材質でできております。なんでも、目白のおかあさんは、床材を選ぶ時に、サンプルの小さいのをもらってきて、お酒をこぼしてひと晩ほうっておいてみて、シミにならないかどうかをシッカリ確認されたらしい。

 妙な生き物を突然連れ帰る習慣のあるムスコを持ってしまったおかあさんは、それならそれでキレイに暮らすための対応をキチンとなさったわけです。

 で。

 最初の夜、その巨大猫ケージの横に、移動用の小さいケージをふたつ、入口を開けたままハリガネでつないで、臨時のチーちゃんハウスを作りました。隠れ場は、段ボール(あの、彼女が捨てられていたと想像されるところの非情な段ボールではなくて、おウチにたまたまあったやつ)。トイレは古いタッパーに猫砂を敷いて。ゴハンと水の器をいれてあげると、チーちゃんは超元気に食べ、さっそくにウンチをしました。

 いやー。

 猫ってすごいよねー。どんなチビでも、一度も何にもいわなくても、ちゃんと猫砂のあるところでトイレするんだから。

「わー、可愛い」

「どれどれ、どんな子っ?」

「あっ、だめ、隠れちゃった。チーちゃーん。出ておいでよー」

 おかあさんやアタシは、玩具みたいな可愛いチビをさっそくにあやしたかったんだけど、今日はこの子も疲れてるんだから、ダメ! とうちの旦那にクギをさされ、猫ケージの前にしゃがみこんで、チー姫さまがお顔を出してくださるのをお待ちもうしあげては、きゃーだの、いやーん見えただのと騒ぎましたです。

 チーちゃんはけっこう好奇心旺盛で、ビクビクしながらも、時々段ボールにあけた穴んコから、ちっちゃなちっちゃな顔を覗かせておもてをうかがいます。人間がじーっとしていると、そーっとそーっと這いだしてきて、ケージの間からちっちゃなちっちゃな手を伸ばして、ちょいちょいっと招くようにして触ろうとします。爪も牙も、まだほんとうにこれで生き物なの? っていうくらいに小さくて、でも、小さいから針みたいにとんがってる。

 あんなひどい目にあったのに、どうもあんまり人間を怖がっていないみたいです。三毛の茶色いのが、口の下に、まるで人間の口ヒゲみたいに生えてる、愛敬のある顔だちです。左目の下に、黒い大きなブチがあって、目をつぶっていても開いてるみたいに見える……というか、海賊のアイパッチをした顔みたいにも見える。なかなか、頼もしい猫です。

 ひと晩怒りっぱなし唸りっぱなしだった先輩ネコのダイスケ(二歳。去勢オス。大怪我をしていてもらい手がなく、神戸からやってきた)も、次の日にはもう諦めがついたみたいでした。病院にいって、検査してもらってかえってきたチーちゃんをためしにそばにやってみると、ちょっと警戒したあと、すぐに、鼻でおしたり、嘗めてやったりしました。チーちゃんも、なにせまだ親から離されたばかりぐらいの年頃。ちーちゃな猫パンチや猫キックで甘えるのです。そして、気がついたら二匹はもう、くっつきあって、優しく穏やかな顔つきで、グッスリ眠っているのでした。

 ラッキー。

 

 犬や猫を一匹だけで飼っているかた。その犬や猫が、遊びたがりの無邪気なさかりで、昼間とか、人間がいなくなる間ちょっと寂しそうだなぁと思っているかた。

 もう一匹、一緒に飼うと、いいですよぉ。

 特にね、犬と猫と。両方飼うって、面白いですよぉ。

 お互い同士で遊んでる犬や猫の可愛さって言ったら、天下一品。0と1には無限の隔たりがありますが、1と2はそうでもない。2と3も……3と4も……いや、さすがに7匹は勧めませんけど。

 いまいる子がそんなに独占欲の強いタイプじゃなくって、新しくくる子がごくチビちゃんだったら、犬と猫でも、まず大丈夫。たいがい、すぐに仲良しになります。いたずら半分のケンカごっこはしても、重大なケガをさせることはありません。ただし。両方、外に自由に出してたりすると、そうとは言い切れないことがあるらしいです。猫好きのチャイ&プーでも、外に出かけて、自分がナワバリだと思っているこの山の一角で野良の猫さんを見つけると、とっさに狩猟本能が蘇った、みたいな表情をしますから。

 あたしの場合、犬にしろ猫にしろ、家の中を好きに駆け回らせておく、って飼いかたを前提にしちゃってるところはあります。だから、ひょっとすると、当てはまらないケースもあるかもしれません。

 ウチでは、おばさん猫のまーちゃんが一番の先住者でした。どっしり落ち着いたまーちゃんを、おとうさんおかあさん(飼い主であるウチの夫婦)が尊重するのを見て育てば、チビ犬兄妹のチャイ&プーも、当然、猫さんは偉いらしい、と覚えます。ゆえに、大ケガ状態の生後2ケ月でやってきたダイスケにも、興味はもちろん持ちましたけれども、攻撃性は出ません。鼻でくんかくんかやって、ファァァァッ! ってちっちゃな牙で威嚇されれば、おっとっと、と、びっくり顔で逃げてゆきます。

 そう。だいたいにおいて、猫は強いです。動作も、犬よりコンマ何秒か速いみたいだし。イザとなれば、バツグンのジャンプ力で、犬の届かぬはるか高い棚の上のほうに逃げてくこともできるし、狭い隙間を走り抜けることもできます。

 ただし、うんと大きな犬が先で小さな猫がアトだと、時には、ちょっと危ないこともあるかもしれないそうです。犬さんが、欲求不満なタイプだったりするとなおさらです。

 もし、猫だけを飼ってるんだとしたら、家の中と外と自由に出入りさせるのも、楽ちんかもしれないなぁ、とは思う。伝統的な日本家屋で、縁側があって、お庭があって、通りのお家との間には畑があるような感じの空間だったら、きっと放し飼いのほうが猫さんも幸せだよね。西部劇に出てくるみたいな、おしゃれで解放的な様式のお家でもね。

 けど……人口密集地では、どうかなぁ。盛岡のわたしの実家では、時どき芝生のど真ん中に、クッサーい猫ウンチがどーんと落ちていて、母やおばあちゃんが怒り狂っていた。そこだけ、芝生が枯れちゃうんだよね。もちろん、野良の猫さんの、かもしれないけどサ。半野良状態の猫さんが多ければ多いほど、野良の猫さんもどんどん増えてしまうんじゃないでしょうか。そうすると、ゴミをひっくりかえしたり、道に飛出してドライバーをドッキリさせたりも、やっぱり多くなるわけで。野良猫よりシツケの悪い人間だって、そりゃあいっぱいいるけどさぁ。

 猫には、犬みたいな登録の制度がないから、どの子が野良で、どの子が誰かに飼われてる奴なのか、出入り自由だと、ちょっとわかんないよね。それも、問題アリかもしれないなぁと思う。

 ほんとは、猫ぐらいたくさん抱えておけるような街のほうが素敵かもしれないとは思う。土の地面やみどりの葉陰より、コンクリートやアスファルトのほうがダンゼン多いような場所に、肩すりあわせながらやっと暮らしてる人間ドモが変なんじゃないかとも思うけど。

 どっちが原因でどっちが結果やら……猫と犬と一緒に飼うことになっちゃったから、どっちも閉じ込めて(でもできるだけひろい空間に閉じ込めて)暮らさせるしかなくなっちゃったのか、それとも、じ込めて飼っておきたいから、それなら、犬猫が仲よくするところ見られるから、そのほうがいいと思ったのか……ワタシにもよくわかりませんが。

 とにかく、仲良く共存してる犬猫は可愛いです。

 それぞれの特性、違いますからね。

 

 まず、どういう時に表情が豊かであるか。これが違う。

 犬は、嬉しさや期待や恐縮や不安を、実にはっきりと見せてくれます。一匹一匹の性格にもよるでしょうけど、ウチの子に限って言えば、『うれし!』の表現はどうしたって、犬さんの勝ちですね。目がぱぁっと輝いて、耳がピーンと立って。後肢立ちになっておとうさんやおかあさんにつかまって、尻尾ぶんぶん。プーなんか、あんまり嬉しいと自分で自分の尾っぽをおっかけてぐるぐる回っちゃいます。

 猫で面白いのは、『……しまった……』の顔ですね。恥かしさや照れ臭さ、バツの悪さ、なんてのは、猫のほうが雄弁です。

 こないだ、ワタシが台所でごはんの支度をしてた時、ダイスケがレンジの横の窓の枠に飛び乗ろうとして失敗したのね。前肢はかかったけど、重たいお尻が乗りきれなくて(枠が狭いってこともあるかもしれないけど)ジタバタしてるので、「しょーがないなぁ」って、押して乗っけてやりました。すると、そのすぐあと、ちっちゃなちーちゃんが、ポーンと飛んで、窓の外をジーッと見てるダイスケの横にちょこなんと着地をしたのであります。

 その時の、ダイちゃんの顔といったら……!

 前肢を伸ばして、お尻を落とし、きちんと座った恰好のまま。じーーーーーーっと、ちーちゃんを見てね。だまーってるの。動かないの。

 ちーちゃんのほうは、別になんでもないわけですから、伸び上がったり、爪で網戸をひっかいたりして、外を見てて。

 でっかいのが、じーーー。ちっちゃいのが、ちょこまか。

 いやはや。面目のなかったダイスケでありました。

 だいたいダイスケと言うのは、しょっちゅう面目のない奴で。たとえば、朝とか夜とか、ふとした時に、わたしや旦那が座って本とか読んでると、突然膝に乗ってくる。ちいちゃい時から、割と独立心旺盛で、滅多に甘えない奴なんだけど。一日にのべ十分くらいは、「ダイちゃんも、だっこだっこ!」状態になる。なるんだから、そういう気持ちがないわけじゃないだろうに、犬たちや他の猫がそばにいると、絶対自分からは甘えてこない。みんなと離れて、ひとりでいる。大猫ケージの上の移動用ケージを別荘にして、ひとり、お昼寝してたりする。

 カッコつけてるというか。おにいちゃんぶってるというか。

 んでも、いったん、甘えのスイッチがはいると、なにせタマ抜きですから、けっこう子猫。仰向けになって、うにゅうにゅして、あまあまして。後肢もちあげて、おかあさんの三つ編みをてててて、とか。伸び上がって、おとうさんの出ないおっぱいをもみもみもみっ、とか。そういうことをやってる時に、たとえば、ちーちゃんが、突然向う側からテーブルに飛び上がって忍びよって来てるのに気付くと。

 ハッ! と。

 ほんとに、一瞬で、やめる。んで、夢から醒めでもしたかのような顔つきになって、「あんだよ。俺に、こんなガキ臭ぇ真似させんなよ!」

 ってな感じで、いかにも嫌そうに、ずっと嫌だったかのように、サッサと膝を降りてしまったりするんだ。この強がりが!

 

 ちーちゃんには、まだそのような屈折はありません。誰にでも甘える。好きなだけ甘える。

 こいつは、いかにも猫らしく、紐が好きでねーーー。部屋の中に吊るして乾かしてある洗濯モノの付属のヒモとか、さんざん飛びついて引っ張って、床に落としてしまう。なまじ床に落ちていると、犬がくわえて走るかもしれないから、コラッって叱るんだけど、やめてくれない。

 しょうがないので、モノホシの隅に、ちーちゃんオモチャを括りつけました。旦那が鷹の道具の制作に使う革の端っぱ、ちょうど紐みたいになっていたやつを垂らし、鈴をぶらさげてやった。動物臭くて、リンリン鳴るほうを、鳴らない石鹸っぽいのより面白がるだろうと思ったんだけど……それはその通りだったんだけど……一週間ぐらいしか持ちませんでしたね。あんまり激しく気に入ってしまったので、遊んで遊んで、とうとう革を引き千切ってしまった。

   植木鉢にはトイレをするし。

 干ししいたけを戻してると、ひとのスキみて盗むし(しいたけがそんなにも好きなのかというとそうではない。どうも盗みにトライすること盗みが成功することそのものが面白いようだ)。

 いやーネコって面白いですね。

 精力のありあまったダイスケに無理やり遊びあいてにされるのに、ほとほとマイッていた大猫まーちゃんにも、魂の平和が訪れました。子供は子供同士でいっぱい遊んで、オバサンが嫌がると、オバサンはほうっておいてくれるようになったのです。

 そして。軽井沢の家に帰ってからは、猫は基本的に、家の一階と地下への階段をいつでも自由にいったりきたりできます。

 すると、なんと。

 あのドロボー顔のルタちゃんが、面倒をみはじめたのです。 あんな顔で、こいつは、保父さんみたいな、優しいおにいちゃんだったのです!

   (未完)

[後記]

タイトル通りちっちゃくてちっちゃかったちーちゃんは、その後、「どっしり象さん」とでも言いたいようなみごとなオバ猫になり、その体形にふさわしい堂々たるのんびり猫人生を歩んで大往生なさいました。