補足(この部分は2003年5月に書いております)

 ルイ太は2002年6月たしか9日、日本がワールドカップでロシアを破った翌日にこの世を去りました。前日(つまりウチの夫婦が日本の勝利に狂乱していた頃)までは元気だったのに、翌朝おサンポにいったらなんだかへん。いつものように元気に歩けない。歩きたがらない。おかしい。それでも昼ぐらいまでは一応は歩けたので、いつもの土屋先生に連れていったのですが、クルマが到着する頃には、もう少し呼吸不全を起こしていました。そうして帰ってきて、グッタリした様子で座り込み、床にヨコ向きに寝たかなぁと思うと……点滴をはじめる頃には意識混濁がはじまっていました。夕方ぐらいからはそれがただ眠っているのではなく、あきらかに以上な昏睡状態みたいになってきました。

いよいよダメみたいだなという時、波多野が床にねそべるかっこうでずっと寄り添って抱いていてやりました。そうしてルイは大好きな大好きなおとうさんの腕の中で、なんにも知らずに静かに眠ったまま、そのまま、一二回ちょっとひくひくっとして(「だいじょうぶ、こわくないよ、いたくないよ」と、彼は言いました)とうとうほんとうに動かなくなりました。

あんな顔をしてずうたいをして、痛がりの怖がりのあまったれだったルイルイが、あまり痛がることもなく、怖い思いもせず、たぶん自分でも何が起こっているのかあまりわからないまま、家族みんなの見守っている中で静かに眠ってくれたことは、きっと良かったんだろうと思います。

わたしは最初ほんとうに自分でもあまりに適役で笑っちゃうほどみごとにイジワルなママハハそのままだったけれど、あとからはちゃんと優しいおかあさんだったよねルイルイ? いっぱい笑わせてくれて、いっぱい甘えてくれて、ありがとうね。天国で待っててね。また逢おうね。 

チーちゃんとダイスケも既にこの世にありません。

もともとウチに来た時から後肢になおらぬ障害のあったダイスケは、そのわりには元気だったのですが、ある日突然やけに痩せはじめました。波多野が仲良しの獣医さんに状態を電話で相談したところ心臓病を疑われたので、ネコ心臓外科では日本一の腕を持つというセンセイのおられるカワサキまで片道六時間かけて連れていきましたが、入院させて検査してみたらガンだったのでした。そのカワサキのセンセイのご紹介で、佐久市の別の先生のところで抗がん剤注射などの治療をうけるようになると奇跡のように回復をして、一ヶ月ほど、ウソのように元気になってウチで暮らしましたが、ゆっくりと体力が衰えて……もうダメでした。それでも危篤といわれてから約三ヶ月生きながらえました。

あえてナマグサイことを言わせていただくと(ネコさんがガンになった場合、高度医療にかけるとどうなるのか知りたいかたもいらっしゃると思うので)この間、入院費その他の医療関係合計で約40万円かかりました。ホケンがきかないので、抗がん剤の注射一本が壱万円ぐらいするのです。もし入院させっぱなしだったらかかった費用はもっと大きくなったかもしれず、ウチで最後の愉しい時間が過ごせなかった分死期がはやまって案外もっと安上がりだったかもしれない。そのへんはわかりませんが、ウチでは、なるべくカヨイでなんとかしようとしました。最後の時はできるだけウチで、おとうさんとおかあさん(ウチの夫婦)のそばで、迎えさせてやりたかったからですが。したがって、症状が悪化するたびに、すべての用事を放り出して片道1時間半ほどかけて病院まで連れていくことになりました。移動が病気のネコにもたらす重い負担と、的確な治療をしていただくことのプラスマイナスをいつも秤にかけながら。

正直わたしは暗かったです。もしこのまま何年もこのレベルの治療しつづけなければならないとしたら、精神的にも経済的にも、ものすごくしんどい。ねぇ、どうするの。どこまでやるの? いつまでやるの? 波多野にそう尋ねたこともあります。彼の答えは、できることがある限り、ダイスケにとってそのほうが良いことがあるかぎり、なんでもやる、でした。たぶんもう一回発作がきたらそれまでだよ、そこでムリに復活させようとしてももうかわいそうなだけだ……動物医学界のBJのミタテは今回も正しかったです。

その点、チコのほうはというと、わたしたちがダイスケにかまけている間に突然みるみる具合が悪くなって、ハッと気付いたときにはまったく手のほどこしようがなくなっていて、静かにかつすばやく身罷ってしまったのです。

なにせもともと太りすぎで、からだのわりに頭が小さすぎ、若いころからミョーにオバサンくさかった。生まれつきの体質が弱く、いつも健康状態はいまいちよくなかったのですが、他のネコたちと仲良く愉しくとりあえず平和に暮らしているし、食べることが大好きで大好きで。大食いなんですよ。痩せさせるためには、ゴハンはちょっぴりでガマンさせて、他のコのゴハンを絶対にとらないように一匹だけ隔離して閉じ込めておくしかない。そうまでして、わずかばかり長生きさせてやることが果たしてチコにとって幸福なのかどうか、どっちかというと好きなように生きて食べたいだけ食べて大往生のほうがいいのではないか、「寿命にまかせてみよう」みたいに考えていました。

あんのじょう突然あっけなく死なれる悲しさはもちろんありましたが……マーロウもそうでしたけれども、オバさんネコっていうのはなんだか気軽にというとへんですが、ミョーに堂々と平然と慫慂としてお亡くなりになったりします。「あんたは死ぬ時までなんだかノンキで、こっちにちっとも面倒や心配をかけないでくれて、良いコだったね、ありがと」って、ちびっと思ってしまいます。