妊娠後期(〜臨月)

産科検診が一カ月に一度から二週間に一度になり、一週間に一度になると、そろそろ「いつ生まれてもおかしくない」雰囲気になってくる。突然産気づいた時に持っていけるように「入院セット」を用意しておいたほうがいいころだ。入院中のことはそっちに書くので参照してください。出産間近ということは、逆に言えば、新生児ちゃんというメッチャ手のかかる目のはなせない存在を「ケアしなくてもいい」時期はあとちょっとだということだ。臨月が近づけばちかづくほど、からだがしんどくなる。赤ちゃんのいる生活に適応する準備は少しずつすすめておくほうがいいだろう。

こども部屋 これまでいなかった家族がひとりふえるのだ。個室いっこまるごとでないとしても、家の中のどこかにベビーちゃん用のスペースを決め、ベビーベッドをおいたり、そろえたベビー用品をおいたりするひとが多いと思う。だが、はじめての出産のひとはここでうっかり間違う率が高いのではないかとおもう。わたしは陥った。こどもはこども部屋に居させ、自分たちはおおむね「これまでの生活」をするのだ、というような錯覚に。とんでもない。こどもがやってくると、こっちの生活もかわる。激変する。しかも新生児は、ひとりこども部屋に隔離してほっとくことなんてまずできない。24時間マンツーマンでディフェンスしなければらなないのだ。なまじ狭いこども部屋を設定すると、実は自分がそこから出られないことになる。とりあえずは、親のあなたのふだんの生活動線の中に、じょうずにこどもも組み込むほうが実際的だしらくなんじゃないかと思う。新生児ちゃんは「置いたとこ」からほとんど動かない。ハイハイしたり歩いたりして動き回るようになったら、それにしたがってだんだんに考えていくほうがいいのではないだろうか。最初からキメてかかると、なにかあなたの予測に反したことがでてきてしまったときには「いったん用意してしまったものを片づける」というテマがひとつ余計にかかる。

シアーズ博士夫妻のベビーブック  某有名妊婦雑誌と同じ版元だから、毎号かかさずきっちり広告をうつ。めだつ。なにしろ現役の小児科医と看護士のご夫妻で自分の子を8人も育てたといわれるとそりゃあプロ中のプロだ! と思うわけで、いったいどんなことを教えてくれるのか、とにかく聞いてみたくなる。なった。わたしも。止めない。まったく役に立たなくはない。善意と希望にあふれた良書である。しかしお値段がホントカ? といいたくなるほどとっても高い上に本もデカくてぶあつくてやたらにかさばる! 妊婦がゴロ寝をしながら読むにはちょっと重すぎる(内容ではなく、じっさいの本の物理的重量が)。テーブルなどにおいて、きちんとすわらないと読めませんよ、これは。また、日頃多くの活字を読み慣れないひとは、そにかくその分量にウンザリすることだろうと思う。「こんなにいっぱい読まないと、赤ちゃんがちゃんと育てられないの?」と思うと気分も暗くなってきそうだ。だいたい妊婦や産婦はなぜか目がすぐ疲れるものなのだぞ。こまかな活字を追いつづけると、頭痛や肩こりがしてくる。活字中毒のわたしですら、臨月や産後すぐは、活字をあまりたくさん読むとたちまちめまいや吐き気がした。あまりほんとに出産ぎりぎりになってから手にいれて、「入院するまでに読み切らないと!」なんて焦らないほうがいいと思う。こんなに値段の高いものを全部使いきらないのはもったいないが、出産後、三時間おき授乳でねむれなくてぽっかりヒマになった時、ちびちび少しずつ読むのをすすめる。 ★ 通読して痛感したのは、これは「白人」の話だ! ということ。西欧文化圏のもののかんがえかたはおおむねキリスト教に基づいている。こどもは動物のうちであり、動物は人間(成人男性)によって支配されるべきものなのだというのが彼らにとってはあたりまえの感覚。階級が上であればあるほど、こどもなんてものは、おとなのジャマにならないよう隔離し、抑圧し、乳母や子守によって酷しく管理する→大きくなったら寄宿舎つきの学校や修道院にあずけちゃうべき、ものである。『メアリーポピンズ』を読み返してほしい。親がこどもを可愛がる描写がほとんどないから。こどもの世話は「したばたらきする使用人」の役目なのだよ。  ★  シアーズ夫妻はここに、「いいえ、こどもの心とからだの発達のために、親がみずからかかわりましょう、もっとふれあいましょう! 積極的に可愛がりましょう!」という「革命的な」思想を持ち込んだのであった。できるだけ母乳で育てろ、添い寝をしろ、抱っこやオンブをしろ……なぜそうするべきかについてのお説もいろいろある。いずれにしろ、日本人にとってはちょっとイマサラである。  ★  とはいえ、なにしろ8人もの子育て経験者でしかも小児科の医者で看護士なひとたちが自信をもってさまざまな問題をとりあげ解決法について断言してくれているので、たよりになるといえば、たよりになる。子育てに疑問や迷いを抱きがちな性格のひと、学生時代「予習」や「テスト勉強」をマジメにやるのが苦でなかった、というかむしろ、そういうことを「しないと不安でだめ」だったひとには、たいへんありがたい本であると思う。

エステもしくはマッサージ にいっておこう! 美容院とか歯医者とかにいっけおけという話がよくでてくる。そういうのもやりたいならどうぞだが、この時期、時間のゆとりがあって体調のいい日をねらって、近所のエステティックサロンやマッサージ、鍼灸院などにいって「たっぷり揉んでもらって、徹底的にリラックスしてくる」のをすすめる。身体的な気持ちよさというものを、よーく、よーくよーく実感して、あじわって、しっかり脳みそに刻み込もう。  ★  もちろん、妊婦さんに「してはいけない」こともある(足裏マッサージとか、ツボによってはすごくいかんらしい)。たぶん相手もみればわかると思うが、妊娠中です、と告げて、それでもやってもらえるコースのうちから、あなたがしてもらったら嬉しそうなことを相談してみること。ちゃんとしたプロなら、きっとうまいこと考えて、ちゃんと対応してくれると思う。もまれれば筋肉がほぐれて、巨大な腹をささえている全身が、ホッと息をつけるような感じがすることであろう。ついでに美顔もたのもう。お顔をパックとかゴマージュとかマッサージとかしてもらって良い匂いのするぜいたくな化粧品をつかってもらい他人の手で丁寧にかまってもらうと「おんなであるよろこび」が胸いっぱいにあふれて、幸福な気持ちになる。ママがハッピーになると、胎児もうれしい。だから、ここは奮発してぜいたくしましょう。とーぶんできないんだから。ただし、もちろん、気分が悪くなったりしたら、施術の途中だろうがなんだろうがちゃんと申告して、中止なりなんなりしてもらいましょう。 ★  このへんでひとつ、「ああー、気持ちよかった! 幸福だった!」な体験をしておくと、しばらくはその記憶をリアルに再現することが、比較的簡単にできるはずだ。それが、とてもとても有効である。分娩台で苦しんでる最中や、授乳地獄で睡眠不足な時、「あの時、あんなに気持ちよかったっけ」「また、そのうち、あそこにいけばいい」「そしたら、また、あれをやってもらえる」と思うことが非常に重要なのである。 リラックスするとはどういうことなのか。理屈ではなく、肉体がおぼえこんでいたら、それを錯覚でも、一瞬でも、呼び戻すことができたら、つらさに耐えるのが容易になるからである。

アロマグッズや音楽 匂いや音楽が無意識に働きかける力は大きい。妊婦はカロリーをとりすぎてはイカンし、たとえば安眠できないからといって薬や酒の助けを借りるのもあまりよろしくない。ストレスをごまかす方法を他にみつけなければならない。好きな匂いや音楽でリラックスできるよう自分を訓練しておくと、なにかと便利だ。特に分娩台で(どうつかうかの具体例は拙著『45歳、もう生んでもいいですか』を参照のこと。有効でっせ〜!)。 ★ ただし、たとえばユーカリの製油は妊婦や妊娠したいと思っているひとには禁忌だったりするので、注意。個人の体質や好みもあろうかと思うが、妊婦向きハーブは、ティーツリー、カモマイル、ラベンダーなどである。