3・WANNA BE A SISTER

 

 縮れてることが嬉しくなく、明らかにヘンだと確信できてしまうのは、実際目にはいる周囲のみなさまと、あまりにも違うからである。

 テレビに出てくるひとにも、あんまりいない。少なくとも、ものごころついたばかりの小学生女子がひそかにあこがれおのがセルフ・イメージのモデルとするようなアイドル・タレント・有名人のかたがたには「ちりちり」なんてまずおられない。中学生の頃わたしのこころの師匠?であったところのシンシア南沙織さま(彼女への憧れが久美沙織の名前に遠いこだまとして響いていることがおわかりいただけるかもしれない)は、これでどうだといわんばかりの健康ツヤツヤまっすぐロングヘアであった。真っ黒で、パーマっ気ひとつない。ああ……そのように自分から遠ければ遠いものにほど憧れる女子心のせつなさよ!

 昨今では、たとえば「小柳ゆき」さまなど、時に黒人シスター風のヘアスタイルをなさっておられたりするが、おしゃれのために自分から選択してわざとなさっているのであるならば、便利だなんだは二の次であろう。ましてハナタレの小学生とは違って、髪のお手入れに、時間やワザやお金をかけることもできるであろう。だったらそれはもうそのかたの自由といわざるをえない。

 ご本人が確実に、うまれつきが始末におえないタイプの「天パ」であることがわかっている大例外がデビューしたての頃の「森昌子」さまであった。彼女はきっとすごーく悩んだだろうと思う。最近はきれいな髪をなさっておられるが、いったい何をどうなさったのか。できるなら是非とも聞いてみたいものである。

 現在サッカー・オランダリーグで活躍中の小野伸二選手を見た時には「ひょっとして遠い親戚じゃないかしら?」とマジ思った。なんか顔も、ちょっと似てるような気がするんだよね。

 曙関のちょんまげ、あれには涙を禁じえない。モットイでくくってあっても、束ねられてるとこが頭蓋骨の形をなぞりながらも「うねー」とうねってるでしょ? あれあれ。ああなるんよ!

   黒人の生まれだったら良かったのに! と何度思ったかしれない。したら、まわりもみーんな多かれ少なかれチリチリだ。なんとこの私よりとんでもないポンポコになっているひとまでもいる! が、彼らは彼らの特性を生かした文化と審美基準を謳歌しているのであって、アフロやドレッドや全面ミツアミが、ちゃんと「カッチョイイ!」ことになっている。彼らのママたちや、彼らの多く暮らす町のふつーの美容院は、いたいけな小学生少女の悩めるチリチリ頭をきっとそれなりにかわいくしてみせてくれるであろうし、チリチリであることが恥ずかしいことだったりみっともないことだったりするように感じさせはしないだろう!

(まぁ中にはマイケル・ジャクソンのような方向にがんばっちゃうひともいるわけだが)。

 不思議でならなかったのは、天パだと知ると、なんら現状をご存知ないままに「いいねー」などとおっしゃる女子がいることである。

「一生パーマ代いらないんだねー!」

 それは違う。誤解だ。大間違いだ。

 本気でなんとかしようとすると、縮毛はものごっつ手ごわい。ただ「ふつう」に見えるように整えておくためだけに恐ろしいテマがかかり、美容院代もものすごい金額になるのである。その件に関しては、わが具体的懊悩の遍歴とともに、縷々述べる。

 ここでは、「隣の芝生とはよく言ったもので、人間ってやつはいつでもないものネダリなんだ」というに留めておく。

 生まれながらにしてどまっすぐ、頑丈で健康でキューティクルがツヤツヤに整っているようなひとにかぎって、くるっくるにしてみたくなったりするもんであるらしい。

 なにしろ、わざわざパンチパーマとかっていう特別のチリチリにするひとたちだっているからなぁ。

 いまなら、ハイセンスな親御さんによって、ヒップホップファッションに似合うレゲエヘアにキメてる幼児なども、まぁときたまは、いるかもしれぬしな。

 だがしかし。

 わかって欲しい。

 わたしがこどもの頃はそうではなかった。ぜんぜんそうじゃなかったよ。

 都会はともかくイナカ町ならまだ、美容院ならぬ理髪店に「○○中学校推奨髪型」のポスターがババーンと張ってあったりする頃だったのだ。男子は坊主、女子はワカメちゃんもどきの襟足刈り上げ型オカッパこそが「正しい」日本のヨイコだった。それ以外のアタマをするやつは、ナマイキでふまじめでワルイやつでオチコボレなのである!

 そんな世間でどう考えてもぜったいに麗しいワカメになれない(イヤ、手はあった。ほとんどハゲなほど短く刈っておいて、ヅラをかぶればよかったのだ。『ピンポン』のクボヅカみたく。しかしそこまではさすがに思いつかなかった)自分を、根がまじめな私がどんなに恥ずかしく疎ましく悔しく悲しく思ったことであろう!

  中学の入学式前に、いきましたよ美容院。やってみましたよ。マッシュルームカットってやつ。ワカメちゃんの、ちょびっとだけ都会っぽいやつ。プロが時間かけてテンションかけてブローしてくれれば、一瞬は「そう」なるんですね。でも、いったん風が吹くともうもとのクセが隠しきれなくなり、シャンプーイッパツで完全に壊滅なのね(ちなみにこの時はパーマはかけていない。カットとブローで、いちおーなんとかしたわけ)。

 そして、なまじ「襟足がきっちり揃っていること」と「まっすぐ素直な髪にきれいに櫛がとおっていること」が絶対条件であるワカメじゃなくてマッシュルームは、わずかな乱れがとてもだらしなくみえる髪型なのであった。まして毛髪はぐんぐん伸びてくる。おのおのぐるんぐるんな癖と縮れをもった毛が出てくるので、裾のラインなどあっけなく崩壊する。

 きれいに整えてあったはずの髪は一週間とたたずにむちゃくちゃになった。

 

 

 

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