5・「史上最悪」の癖毛

 

れそのように始末に終えぬ極悪な髪をも、扱いやすくしてくれる魔法がある。縮毛矯正の一種で「エルコス」という会社の製品を利用した独創的技術で、

    Mr.ハビット

 というものだ。

 わたしはいま、約四ヶ月に一度、これを施してもらっている。おかげさまで、助かっている。これをやるとやらないとでは天国と地獄なのだ! 科学の発達とはありがたいものであるのう……。

 が、ここではまず、癖毛対策のうち、ハビット以外の方法についてかたろう。

 ストパー、短く切る、帽子やヅラをかぶる、の三点についてである。

 んーなことはもう知っている! それよりはやく結論を! というひとは、ここをクリックして Mr.ハビット のほうに飛んでください。

 

 

 

1・ストパー

   ハビットにめぐり合う前に、「ストレートパーマ」も何回かやってはみた。下敷きの長いようなのを、頭まわりにぐるりとくっつけるアレ。

 これとて実は画期的だった。なにしろ「短く切る」のと「厚みをすく(レイヤーをいれる)」以外に、なにもすることのできなかったわたしの髪を、ともかくいちおーそれなりにまっすぐにしてはみせてくれたので感激であった。

 癖毛とはいえカールがゆるく、髪質が柔らかなひとならば「とびきり大きなロットで、ふつうのパーマを」かけるという手段があった。小さなブレは、ロットというローラーで強引に均してしまうわけである。ふつうのパーマには長い伝統があったし、ふつうのひとにかけるふつうのパーマと違って必要なのはただ「巨大なロット」だけで、技術的にはあまり変化はないから、ほとんどどの美容師さんにもやってできないことはなかっただろう。

 ところが、硬くてゴワゴワでガンコな癖の陰毛型縮毛には、ふつうのパーマ液では、ほとんどたちうちできなかった。

 そこで、ストパー。

 素人ながらわたしの理解しているところでは、だいたい次のような方法で、チヂレをまっすぐにするものである。

 いわゆる一液で、まず髪をやーらかくする。タンパク質をつないでいるクサリをすこしゆるめるみたいなもんすかね?

 ふにゃふにゃのでろでろになった髪をこまかくパートわけをし、長下敷きもどきにテンションかけてひっぱり伸ばしながら櫛ではりつけていく。海苔を干すようなもんです。あるいは、えーと、あとでアイロンかけをさぼるために、ハンカチを濡れたまま窓にぴたーっと貼ったことありませんか? ちょうどあんな感じ。

 そうしてズラーと上下に重なりながら頭の周囲全体に下敷きが並んだところで、このカタチをくずさないようにそーっとそーっと二液を投与していく。たぶんこの状態(引き伸ばされた状態)で固定するような酵素かなんかなんじゃないすかね。

(一液が酸性だったらアルカリ性の臭素酸ナトリウムなどで、一液がアルカリ性だったら酸性の過酸化水素水などで、中和する、ということもあるらしい)

 まぁたとえていうならば、校庭じゅうの好きかってな場所でだらだらしていた蛋白質どもを、マスゲームのようにビシッと整列させといて、ノリでかためる!

 そんな感じでしょう。

 わたしのように髪が長くてやたらに多いやつがこれをやるというと、店にあるかぎりの下敷きが必要となるんですねぇ。あたまのまわりじゅうに、黄色だったり水色だったりのプラスチックの短冊みたいなもんが何列何層もダーッとくっつくんである。そのかさばることといったら。視界ゼロだし。重さのあまり、椅子からたちあがろとうするとギックリ腰をおこしそうになり、時にはシャンプー台までいくのに、誰かに助けてもらわなければならないほどであった。

 

 それだって、やらないよか、うーんとうーんとマシだった。

 なにしろこのわたしが生まれてはじめて「ほんとうにまっすぐ」な気分になれた。そりゃあもう嬉しかった。

 ところが……ストパーってのは、かなり強引なものらしく、くりかえすと髪がどんどんワヤクチャになってしまうのである。

 たまさかかもしれない。パーマとひとことでいってもいろんな薬品がありいろんな美容院があり技術者がいる。その頃めぐりあったひとが運悪くヘタクソだったのかもしれず、あまりに「とにかくすんごくまっすぐに!」とたのんだわたしが強引すぎたのかもしれず、単にパーマ液が体質にあわなかったのかもしれぬ。

 とにかく、ふと気がついたらわたしは、髪全体が前から後ろから上から下までほぼみんなまんべんなく枝毛、という最悪な状態になってしまっていたのである!

 枝毛は切れる。ちょっと髪をとかすとすぐ切れる。切れると切れたところが白く見える。わたしの髪はそのころほとんど「真っ白」でまるでまんべんなくフケをまぶしたみたいに見えた。なにがいやがって不潔っぽくみえるのがいやだったはずなのに!

 ガックリして、ストパーをやめた。

 やめるととうぜん、ネッコのほうから力強くうねる新しい髪が伸びてくる。まっすぐパーマもやがてとれ、ざんばらりんになった。

 当時は髪を染めるという選択肢はまったくなかった。こんだけ傷んでるものにさらにカラーリングなんて、当時は言語道断であった。カラーマニキュアがせいぜい。

 かくて、青光りするほど黒く、かつ、傷んだせいでフケがういているかのように細かな白が散った分厚い雲のような髪が、うねうねのもこもこ状態で存在するんである。長さがあるほうが、髪自体の重みが助けになる。たとえば肩より短くしてしまうと、その状態でかさねなりあって膨れあがり、長さよりも厚みのほうが目立つ、という、まさにとんでもないことになる。レイヤーはもってのほか。ここまで強烈に傷んでいると、途中で終わる髪があればあるほど、それがクッションになってどんどん膨れてしまうのだ! だから、背中の真ん中ぐらいまでの長さはなにがなんでもキープしておかなければならなかった。

 黒髪は重たい。淡い色よりよりいっそうの威圧感がある。

 それが長くてしかもくるっくるのうねうねのぽんぽこぽん。ところどころは、なにをトチ来るってか、ロールパン状の縦ロールにすらなっている。きれいなGOTHなロールじゃなくて、ほとんどわんこの毛のからまって「フェルト状」になったやつみたいなもん。みつけたら時間をかけてねんいりに裾のほうから順番にほどいていくしかないんだけど、これがさぁ。頭の後ろのほうだったりすると、あんま長いこと続けて手をあげてらんないし、鏡でもよく見えないしさ。どうしようもなくて癇癪をおこして、ごっそり切り落としてしまったことも。

 髪が先のほうで重力にさからって「はねあがる」なんて、アニキャラにしかありえないと思ってるひといるでしょう? それがさぁ、なる時はなるんだって。自然とそうなってしまうことすらあるのだからとんでもない。

 その頃、わたしの髪はひとつにくくると、ざっと「細いダイコン」ぐらいあったと思う。オダンゴにしようとすると、自分の顔と同じぐらいの大きさのものができた。マジ。薄毛のひとは「羨ましい!」というかもしれないが、傷んで膨れているからのその厚みなのである。

 ド迫力。ほとんど魔女。

 この尋常ならざる髪が生かせる、このヘアスタイルが似合う服装といったら唯一、あの、PINKHOUSEしかなかった! なにしろピンハのショーやカタログでは、わざわざ盛大にサカゲをたてて、髪をぽんぽこにしているのである(金髪だったりするけど)。ピンハのショップにいくと、この絶望的な髪が、マヌカンさんや居合わせたよそのお客さんたちに「きゃー、いいなー!」といってもらえたりするんである。偶然の行動は報酬によって強化される(オペラント条件付け)。いまにいたるわたしのピンハ贔屓はここで決定づけられてしまう。

 ところがピンハってのはスカートも上着ももっこもこに着膨れるものだ。あの頃のわたしは三頭身だった。ものすごいアタマデッカチのひとになってしまっていたのであった。

 

 そんなこんなのある日のこと。とある美容室に、はじめて出かけた。

 実はイトコ(姉も同然)が結婚した相手が美容師さんだったのだ!

 結婚祝いの席で「こんなアタマで悩んでるんです」とグチッたら、なんとかカットチャンピオンだかである素晴らしく腕のいい美容師さんであるところのなりたてのおにーさんが「いちど、うちに来てみる?」とおっしゃってくださったんである。

 やっと時間ができて、でかけてみた。

 その美容室で……おにいさまに……しげしげとマジマジと我が頭髪にさわっていただいた挙句、わたしは言われてしまうのである。

「うわー……こりゃあ……うーん気の毒に……おれ、美容師になってから十ウン年たつけど、いままで見た中で 最悪の髪質 だな……」

 うっそー!

 とも思いつつ

 やっぱりーーー!

 と、思った。

 かねがねひどいひどいと思っていたけど、やっぱそうだったのねー!

 わたしが、ワガママで堪え性がなくて大袈裟で贅沢ものだったんじゃなくて、ほんとのほんとに史上最悪だったのねー!

「あのね、うちではふつうのストレートパーマぐらいしかしてあげられることがなくて、それじゃあとてもこれには立ち向かえないと思うんだけど」と兄。「世の中には、Mr.ハビットっていうのがあって、それだと、ほんとうにとんでもない縮毛もきれいに矯正できるらしいんだ」

「ああ、知ってます。雑誌で広告みたことある。でも、ストパーでここまで傷んじゃったから」

「ハビットは傷まない。むしろ傷んでる髪をなおす」

「ほんとですか!」

「……って話」

  

 プロのお墨付きをいただく新機軸! これは効果が期待できそうだ。

 兄の性格だからこそ、はたまたミウチだからこそ(そうしてわたしの頭が実際あまりにも哀れだったからこそ?)、彼も思わず商売ヌキになって、ここではダメだよそにいけ、なんて、ふつー言いにくいようなことを言ってくれたのではないかと思う。ありがとーハルキさん! 

 かくて。

 いつも読み飛ばす女性雑誌の広告欄を真剣に呼み、発売元がやっている美容院「ソクレ・ヘア・ドウ」というなんだか小難しいコジャレた名前のところを発見したのであった。電話してみたらとっても親切で感じがよくてさっそく予約をいれることにした。しかし……そこはなんと、巣鴨なのであった!

 

 地方都市のかたにはいまいちこのオチがピンとこないかもしれないから説明する。

 巣鴨の代名詞は「お婆ちゃんの原宿」である。とげぬき地蔵商店街というやつがあって、豆大福だの腰痛ベルトだの赤いデカパンツだのといったものを売るお店が並んでいる。クルマのはいらない道は、いつもご老人カップル、ご老人グループ、ご老人集団で賑わっている。

 ……ということを知ったのは後に、ソクレのかえりにはほとんど習慣のようにお地蔵さんの前の露天でその場で好みのとおりにあわせてくれる七味唐辛子を買いに寄るようになってからの話であって、その頃のわたしにとっては、巣鴨というのは、まったく未知の世界、想像の埒外な場所であった。確かに山手線の駅のひとつではあるのだが(それもあの池袋からたったふたつなのだが)渋谷や原宿や新宿や新橋や有楽町や浜松町などと違って、これまでの人生でただの一度も降りたことのない、どこがどうなっているのか全然予備知識がない駅だったのである。

 

 しかしここにして正解なのだった。ここはほんとうに良いお店だ。ellcosの自社ビルなのかなぁ、会社の本部と「同じビル」にあるぐらいで、情報は早いし、製品は常に最新だし、そもそも店長さんが超優秀。全国各地のハビットを仕入れるお店に説明や技術指導にいく立場。

 だがしかし、なんてったって巣鴨(しつこい)。

 利用美容学校を卒業したばかりの若い見習美容師さんたちなどが、どーしても来たがらないらしい。ハイゾクを希望しない。居つかない。

 地方出のニュー美容師さんたちは、東京の美容院といったら、カリスマ美容師のいる原宿の店ってやつからイメージしてしまっていたりする。その原宿は(いまもそうなのかどうかわからないがある時期はきっぱり)なにが嬉しくてこんなに美容院ばっかり次々にできるんだ? というぐらい、どこもかしこもやたらに新装開店の美容院だらけだった。表参道に立って思い切り石を投げたら、どの方向でも間違いなく美容師さんにあたっただろう。そんな店のひとつにたとえ就職ができたとしても、競争も激しいし、朝は早いし夜は遅いし物価は高いしコンビにはこんでるしとにかくついていくのが大変だろうし、お客さんたちもハイセンスといえば聞こえがいいがようするに高飛車で接客業のキャリアの浅い少年少女などにはあまりにも手ごわい相手すぎるひとびとばかりなのではないかと思うのだが、それでもそーゆーとっからやってみたいと思うひとがアトをたたなかったらしい。

 でもって、巣鴨のソクレ。超有能で美人でデキる店長の笠原さんが、ともするとひとりでキリモリしていたりする。当然、予約制であって、わたしなどは新幹線にのっていくわけで、もし都合があわなかったりすると悲惨なのでかなり早くから予約をいれてしまうわけだが、いつもわりとすいている。ていうか、ふつうはマンツーマンである。たまに見習いさんがいるときは、わたしひとりに、ふたりついてくれたりする。おおぜいの美容師さんがおおぜいのお客を分刻みで回転させてベルトコンベア式に施術してゆく美容院風景をなんとなくあたりまえだと思っていたが、こののーんびりした雰囲気は貴重であって、もちろんおおいに癒しになるのである。

   ちなみに……

 天パのちりちり度合いは年齢によって影響を受ける。

 年をとると髪がハリをなくし、ひとによっては一気に薄くなったりする。 あまりにゴワゴワで分厚い天パにとって、経年劣化による「へたれ」はむしろ恩恵である。

 20代30代と年を経るにつれ、史上最悪と呼ばれたわたしの髪も、少なくとも小学生中学生だった頃よりはだいぶん扱いやすくなってきたような気がする。いちばん困る時期つらい時期、いちばんひとめを気にし、色気づきはじめ、仲間集団にとけこめないオノレを許しがたい時期によりによちって一番ひどい状態になっていがちであるとはまったくどういう因果なんだという気がするが……あえてその意味をさぐるつーと、人生修養ってやつですかねぇ?

   

 

2・短く切る

 

 短く切ってみたことも何回かある。長いのがひっからまってうっとおしくなったり、あまりにイタミがひどくなったりすると、発作的に切りたくてたまらなくなる。女性雑誌の「春のヘアスタイル」なんつー記事を見て、うっかりその気になることもある。ほとんどの場合、推奨されているヘアスタイルはわたしにはまったく実現不可能なものであっても。

 

 たとえばおよそ二十年前、下北沢の美容室で、美容師さんにこんこんと説得をされた。

「天パーはうねる。どうしてもうねる。こっち向きに一回うねってからまたあっち向きにうねる。だから膨らんで始末におえなくなる。だが、うねりの大きさはだいたい一定だ。最初のうねりが終わって,次のうねりがはじまる前にカットすれば、残るのはきれいなカールだ。しかも短ければからみにくい。とかしやすい。とかしやすいと傷まない。自分でセットもシャンプーもしやすい! 良いことずくめだ」

 ほんとにまったくその通りだ! と思ったから、そりゃあもう思い切り短く切ってもらった。わたしのうねりは細かかったのである。そのみじかさたるや、いまでいうならハル・ベリー。つーか、もうちっとで虎ガリ? はえかたのクセのせいで、地肌などところどころ透けていたかもしれん。

 カット直後に会った小室みつ子は「久美……脳の手術でもしたの?」とマジ絶句していた。いくらなんでも脳の手術をする時にはもっと短くすると思うが、その回復期に似てはいたりしたかもしれない。

 キュートに思い切ってさっぱりしたクリクリ頭は、願わくはリボンの騎士のサファイヤのイメージだったのだが、そんなふうにはならなかった。モンチッチ。大仏さま。パンチパーマ。おばさんパーマ。ひとさまにもいろいろ言われた。

 そして最大の問題は……短い髪はすぐ伸びるのである!

 カールの最初のひとつのところで切ってある髪は、ちょっと伸びたとたんに、そりゃもう猛然とうねりはじめる。

 この短さでキープしようと思ったら、二週間にいっぺんはマメに美容院にいってプロにカットしてもらわなければならないのであった!

 ちなみに当時のわたしはいまより15キロぐらい痩せていて、肩とか膝とかすっかりとがっていた。色も黒くて、とても凛々しかった。そんなやつがあまり男らしいスタイルにしていると(化粧もしてないし、ジーンズとかはいてるから)ともするとしばしば男子に間違われる。特に夜の新宿二丁目で酔っぱらいのおじさんとかに……。

 いまになって振り返ってみると、それってとっても良いじゃないか、そんな自分をなぜもっと生かさなかったんだ! と怒鳴りつけたくなるのだが、何度もいうようにひとの本性はないものねだり。その頃のわたしは「女らしい女」「どうみても明らかに女」なのに憧れていたのである。ひらひらでフリフリでピンクだったり赤だったりお花模様だったりするのが、好きだったんだよう(泣)! 

 昨今、エクステンション(つけ毛)というものができてきて、今日みじかかったひとがいきなり「なんちゃってロング」になったりすることも可能らしい。これはヅラの一種だが、これまでの半カツラとかカモジとかと違うのは、自分の髪のおわるところにいきなり別の髪をくっつける(人工物の場合もあり、誰かの売った生きた髪の死体?であることもある)ことである。アロンアルファでくっつけたり、蛋白質のりでくっつけたり、ちょーこまかなアミコミをいちいち作って結び付け?たりするらしい。まったく科学の進歩とはありがたいものであるというか人間の欲望には限りがないというか美容師さんたちも次々にいろんな手を考えるねぇ! というか。

 残念ながらこれはわたしはまだ一回もやってみたことがない。やってもみないうちから言うのもなんだがあんまりうまくいかないような気がするんである。

 だってさぁ。もともとまっすぐな人が毛先だけくるりんとカールさせてりゃあ、かわいいよ。けどね。もともとチリチリのくるくるなやつの毛先のほうだけまっすぐっていうのはどうよ? へんでしょうが。

 オオモトのネッコのほうが統制がとれてて、やがてのびのび闊達に拡散していくことには、存在様式としての基本的な正しさがある。春が来ると雪がとけて川になって流れていってフキノトウかなんかが芽吹くわけである。エントロピーは増大する。その反対の現象というのは、おちつかないというか、すわりがわるいというか、時間軸をさかまわしにしたみたいというか、ようするに単純に「ヘン」なのである。

 

   

 

3・ヅラと帽子

 

 ヅラすなわち鬘、英語でいうとウィッグなら、ナンコも持っている。何度もやってみたことがある。

 最初にテにいれたのはもちろん、あこがれのド直毛であった。

 旧おかみきの頃のサイン会に、めるへんめーかー先生が描いてくれた浅葉未来のヘアスタイルにマァマァ似ているかたちのボブをかぶっていったこともある(そもそも未来があーゆーヘアスタイルなのは、もちろん願望充足である)。

 おキモノを着るのに凝ってみた頃は、平安女官の髪もどきの半カツラもよく使った。そうそう天パは、何に似合わないって和服にまったくといっていいほど似合わない。和装は洋装以上に清潔感が大切だ。使いふるしのタワシみたいな頭をしていると、どーにもならない。前髪だけなら、自分でもなんとかそれなりにブローできる。短時間なら防水スプレー?でガッチリかためてもおける。

 しまいには、ドレスコードGOTHのパーチーに出るためだけに「あきれたどピンクで、たっぷり腰まである」アニキャラのヘアスタイルみたいなカツラまで買ってしまった。あまりにドハデで非現実なカッコで山手線に乗るのには……ていうか、亭主の実家のマンションを出て駅にいきつくまでのほうがむしろ、さすがに勇気が必要だったが、やってしまうとなんちゅーことはない。もうこうなるとコスプレの領域なので、似合うとか似合わないとかかっこいいとかわるいとかそーゆー問題ではないんである。やってみて嬉しいとか、ウケてよかったとか、そーゆー種類のほうである。ただしこのどピンクのヅラなどは、とうぜんのこととして謎の人工繊維でできていて、さわりごこちはあまりよくない。冬など、そこらいったいにものすごい静電気を発生させている。ほとんどオーラを発しているような具合である。

 ただしそれそのような品質なのは、くだんのどピンク物件はあくまでお遊び用の例外だからだ。

 カツラ業界はものすごい進歩をしていて、最近のものはまぁほんまにすごい。人工物なのに、そうは見えない。つけやすいし、ツヤツヤでカールの具合もきれいで、かぶっていてもそんなにはムレない(ぜったいにムレないとは言いがたいが)。お手入れがやや難しいのは、とかすと盛大に静電気が発生するからと、なによりわたしが不器用だからだと思う。 

 ピンク物件などは「ヅラだとわかってかまわない」ものである。

 世の中には、ヅラかぶってるなんてことは知られたくないひともあるわけで、そーゆーひとむけのなのは、そりゃーもう、実によくできているのである。もちろんオモチャの類のやつとは、値段がヒトケタ違うけどね。

 ちなみにわたしが、ドピンクのかつらをかぶってみよう! と思ったのはロック・ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アグリーインチ』を見たからかもしれない。いろんな種類のカツラでファッションで次々に変身してみせるヘドウィグちゃんがそりゃーもう素敵にオシャレでかわいかったんだもん! つーか、だって彼ってばほんとは男だよ。もともときれいなかおだちだけど、しげしげ見るとヒゲのそりあとがあったりするでしょ。そういうひとでも、平気でラブリーになっちゃっているんである。なんとたくさんの勇気をあたえてくれる映画であったことか!

「なりたい自分になればいいじゃん。可愛いカッコしたかったら、してもいいんじゃん! 思い切って好きなカッコをしちゃったやつの勝ちなんじゃん! どーせやるなら徹底的やりたいじゃん!」と、痛切に思ったのであった。

 あまり皺だらけになる前に一度、是非ともAYU色ゴールドに挑戦してみたいと、ひそかに思っているわたしであった。

 ちなみにあまり長くて厚みのある髪だとそりゃーカツラはかぶりにくい。まとめるためのネットはあるけど、根本がどうしたってポンポコだと、アタマがひとまわりでかくなってしまってシルエットも美しくない。

 

 かぶりものといえば、世の中には帽子というスコブル便利なものもある。野球キャップ、テンガロン、キャスケット、チューリップハット、ベレー帽、麦わら帽、種々のニット帽。すんごいたくさん持ってるなぁあたしたぶん。

 なにしろアタマが最悪にすっとこどっこいでムチャクチャなのにスーパーマーケットまでいかなきゃもう大急ぎで! みたいな時は、深々と帽子をかぶっちまえばいいんである。悩み無用。まぶしい時、寒い時、日焼けしたくない時、帽子はいろいろとやくにたつ。かわいーのをかぶれば楽しいし。

 ただしそれはわたしはもうレンアイ的にはすっかりあがっちまった人間で、うちのダンナさんはそもそも、わたしが犯罪者みたいな目出し帽をかぶってよーと、しっちゃかめっちゃかな爆発アタマをしていようと、いっこーに気にしないひとだったりするからであるかもしれない。

 裸のニクタイが勝負な時、好きになったひととこれからはじめてイイコトしようなんて時に、生まれつきアタマに問題がある(……)とこれはほんとうに困るんである。セットがなんとかなっているうちはいいんです。がんばってきれいにブローしてあるとか、編んであるとかね。問題は、編み髪はふつーそういう場面ではほどかれるということです。ほどくと、ぐっしゃぐしゃなのがバレます。あなたの髪はいったんぐしゃぐしゃになったら最後、「ラックス・スーパーリッチ」のコマーシャルのようにサッとひとふりしたら裸の背中にサラリと流れたり、しません! ぽんぽこなかたまりがぽんぽこはずむ。とてもマヌケです。

 乱れた髪、というのが色っぽいのは、その乱れが短時間で容易に解消できるからの場合のみで、乱れっぱなしのザンバラでそのままではとてもオモテを歩けない状態になってしまうんだとすると、とてもじゃないけど魅力的だなんていってられないわけです。

 その上もし、汗になるような行動をとるというと、これは言うまでもなくどんどん事態が悪化します。ぼわぼわに増大した雲みたいな髪は、彼がそっと優しく撫でてくださろうとしたとたんにおもいきりからまっているところにぶちあたって指がひっかかって、あなたに「いたーっ!」と悲鳴をあげさせてしまったりするわけです。さらにシャワーを浴びたりなんかしようものなら、例のプール授業のあと問題が再燃します。濡れた髪は単にほっといただけではやがて自由奔放にアバンギャルドに芸術的に乾きはじめ、言語道断領域に突入するからです。

 それそのような苦難を、すばやくなんとかごまかせるようならこんな苦労はしません。

 あなたの新しい恋人は、あなたが一時間半かかって、必死にブローするのをじっと待ってくれますか? 手伝ってくれますか? それがもしラブホだったら、そのブロー作業のために当然必要となる延長の分、費用がかさみます。それに、あなたの髪はきっとそーゆー場所にそなえつけのクシごときではどーしよーもないはずだ。そういうことになりそうだと思ったら、勝負下着よりなにより、「きちんとブローできるセット」(しかるべきブラシ、しかるべきドライヤー、しかるべきスプレーやクリームのたぐい)を一抱えもっていくようにしなければならないのよ。よよよ。よよ(泣)。

 

 それそのよーに、極悪天パはおりおりの「まさか」の場面であなたを混乱と絶望におとしいれようとするわけですが、なっちまったもんを一刻もはやくどうにかしたい気持をごまかして抑えておけるなら、とりあえずカワイイ帽子があれば、なんとかなるんだよね。それをかぶることが自分のオシャレなんだ、自分らしさなんだと主張できる状況だったら、ノープロブレム。欠点を補うためにやってることじゃなくて、そうしたくてしてるんだって自分でも思えたらなおよし。

 けど、なんつったって小学校中学校高校なんだよなぁ。授業中にまでずっと、帽子かぶってるわけには、いかないもんなぁ……。

 

     

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